寡婦年金

国民年金に加入している被保険者に万が一のことがあったとき、遺された家族が受け取れる遺族年金には、3つの死亡保障制度が用意されています。

その制度の主軸となる「遺族基礎年金」の他にも、「寡婦年金」や「死亡一時金」があり、それぞれに受給要件が設定されています。複数の要件に該当する場合には、どれを受給するのかご自身で選択しなければいけません。

このページでは、「寡婦年金」について詳しくご紹介します。対象となる人の条件や受給期間・貰える金額・他の年金との併給・税制面での優遇まで、いざという時に交錯してしまわないよう、しっかりと概要を整理していきましょう。

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寡婦年金の受給要件とは

寡婦年金とは、夫を亡くした65歳未満の妻が受給できる年金です。

子どもがおらず遺族基礎年金を貰えない妻でも、寡婦年金の条件を満たしていれば受給することができますが、妻を亡くした夫は対象外のため貰うことができません。

受給するためには、被保険者である夫にも、生計を維持されていた妻にも、一定の条件が設定されています。まず初めに、夫の条件は以下の通りです。

  1. 国民年金の第1号被保険者として、保険料納付済期間と免除期間を合算した期間が10年以上ある
  2. 障害基礎年金の受給権者ではなく、老齢基礎年金を受給したことがない

1、の期間に関しては、これまでは「合算した期間が25年以上」という高めのハードルでしたが、平成29年9月からは「合算した期間が10年以上」へと改正されました。

次に、妻の条件を見ていきましょう。

  1. 夫が亡くなった時点の年齢が65歳未満である
  2. 夫によって生計を維持されており、今後も年収850万円未満(所得が655.5万円未満)である
  3. 婚姻関係が10年以上継続していた(事実上の婚姻関係を含む)
  4. 自身の老齢基礎年金を繰り上げ受給していない

遺族基礎年金の受給対象は、子どもまたは子どものいる配偶者、となっていますので、「じゃあ子どもがいない妻では、何の助けも得られないの?」と感じた方も多くいらっしゃるかと思います。

そこで寡婦年金は、夫の支払ってきた国民年金保険料を掛け捨てにせず、遺された老齢の妻の生活を支えるために用意された、老齢年金の支給開始までの期間を繋いでくれる支援制度なのです。

寡婦年金は何歳から何歳まで貰えるの?

寡婦年金は、妻が60歳から65歳になるまでの5年間が支給対象です。

そのため60歳未満で夫が亡くなると全期間受給することも可能ですが、60歳以降に亡くなった場合には受給期間は短くなります。

  • 60歳未満・・・60歳に達した月の翌月から、65歳に達する月まで支給される
  • 60歳以上・・・夫が死亡した月の翌月から、65歳に達する月まで支給される

受給できる期間によって金額は大きく変わってきますので、その時のご自身の年齢と受給期間を踏まえて「寡婦年金を選択するのかどうか」を検討するのも良いですね。

寡婦年金はいくら貰えるのか

支給される年金額は「夫が受け取るはずだった老齢基礎年金の4分の3(75%)」です。

計算式では、夫が亡くなる前月までの第1号被保険者期間をもとに算出されます。ここで注意したいのは、第2号・第3号被保険者であった期間は含めないという点です。

では実際にモデルケースによる計算をしてみましょう。

(例)夫が第1号被保険者として300月(25年間)保険料を支払っていた場合

77万9,300円(平成29年度・老齢基礎年金満額)×(300月÷480月)=約48万7,000円
約48万7,000円×3/4(寡婦年金の支給割合)=寡婦年金の支給額は約36万5,000円

上記の例では、納付済期間を300月として計算していますが、もし期間内に保険料の免除を受けた期間がある場合には、減額されて算入されます。

免除を受けた時期によっても計算式が異なるなど、少々ややこしくなっていますので、ご自身の免除期間を含めた年金額をきちんと知りたい方は、お近くの年金事務所など専門の窓口へ問い合わせてみてください。

遺族基礎年金と寡婦年金は併給できない

基本的に年金とは「1人1年金」を原則としていて、遺族基礎年金と寡婦年金は併給できません。

両方の受給要件を満たしている場合には、どちらか一方を選択して受給します。ただし「どちらか一方しか受給権がない」わけではなく、正しくは「同時には受け取れない」という意味合いですね。

例えば、子どものいる妻が遺族基礎年金を受給していたとします。その後、子どもが全員18歳年度末(障害等級1級2級の子は20歳年度末)を過ぎ、遺族基礎年金の受給要件から外れれば、受給権を失い支給は終了です。

しかしそのときに妻が65歳未満で寡婦年金の受給要件を満たしていれば、失権した翌月から寡婦年金を受給することが可能なのです。

年金の併給はできませんが、受給要件から外れて失権または別の事由により支給停止とならない限り、いつでも選択受給ができると認識しておきましょう。

死亡一時金と寡婦年金はどちらかしか受け取れません

死亡一時金は、遺された子どもや配偶者だけではなく、父母・孫・祖父母・兄弟姉妹といった、生計が同一であった広い範囲の遺族が受け取ることのできる一時金です。

死亡一時金と寡婦年金は同時に受けることができませんので、どちらも要件を満たしている場合には、いずれか有利な方を選択しなければいけません。

通常であれば1回の支給で終わってしまう死亡一時金よりも、年金として継続的に受け取れる寡婦年金を選択したほうが有利なケースが多いのですが、中には死亡一時金を選択したほうが良いケースもあります。

  • 老齢基礎年金の繰り上げ受給など、寡婦年金が支給停止になるような事由を検討している
  • 65歳まであまり期間がなく、寡婦年金の受給できる期間が極端に短い

・・・・など。

こちらも受給する際のご自身の状況に応じて、お得なほうを選択すれば問題ありません。

寡婦年金は非課税です

通常の老齢年金では、控除額を超えた金額に対して所得税がかかってしまいますが、遺族年金はどれだけ高額を受給していても、非課税として扱われますので税金はかかりません。

今回ご紹介した寡婦年金だけではなく、一般的に国民年金や厚生年金から支給される、以下のものが非課税に該当します。

  • 遺族基礎年金
  • 寡婦年金
  • 死亡一時金
  • 遺族厚生年金
  • 中高齢寡婦加算額などの加算分

遺族年金を受給しながら働いて収入を得たとしても、課税されるのは労働収入のみになりますので確定申告は必要なく、遺族年金を貰いながら他の世帯(子どもの世帯)に扶養として入ることもできるわけです。

せっかく配偶者が遺してくれたお金でも、所得税や相続税で目減りしてしまうと、生活を支える収入であるがゆえに困ってしまいます。

なので収入としてみなされずに税制優遇を受けられることは、思いのほか助けられる大きなメリットとなるのです。