自営業 障害年金

現在の年金制度では「自営業者は国民年金、会社員は厚生年金に加入」となっています。

あまり知られていませんが、国民年金と厚生年金とでは、老後の年金額が違うだけではなく、障害状態になった時に貰える障害年金の受け取り条件や支給額も違ってきます。

障害年金は老後の年金と同じく、国民年金の方が厚生年金と比べて支給額が少なくなります。いざという時に少ない支給額では、生活が厳しくなる恐れがあるので、自営業の方は今からご自身でしっかり備えておく必要があります。

国民年金と厚生年金では、障害年金の支給にどれくらい差が出るのか?自営業の方が今から備えるにはどうしたら良いのか?を解説していきます。

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自営業者は障害基礎年金のみなので、障害等級3級(または3級未満)になっても対象外

会社員(厚生年金)なら障害状態が比較的軽い3級以下でも障害年金を受け取れますが、自営業者(国民年金)は障害状態がより重い1級、2級にならないと障害年金を受け取れないのが現状です。

受け取り条件の違い

障害等級 国民年金
(自営業者)
厚生年金
(会社員)
1級 ○受け取れる ○受け取れる
2級 ○受け取れる ○受け取れる
3級 ×受け取れない ○受け取れる
3級未満
(障害手当金)
×受け取れない ○受け取れる

障害等級の状態ってどのくらい?

  • 1級…両足が動かない
  • 2級…片足が動かない
  • 3級…片足の膝から下が動かない
  • 3級未満…片足の足首から下が動かない

足で例えるならこのような状態です。障害年金の対象になる病気やケガは、手足や目・耳などの他に精神障害、糖尿病などの内臓障害なども含まれます。

自営業者と会社員の障害年金給付額はこれだけ違う

では支給額は実際どのくらい違うのかを見てみましょう。

設定

  • 家族構成:夫35歳、妻35歳、子3人(全員18歳未満)
  • 障害等級:夫が障害等級1級になった
  • 夫の平均標準報酬額:35万円
  • 【自営業の場合】夫の国民年金加入期間:平成17年4月から12年間(144月)
  • 【会社員の場合】夫の厚生年金加入期間:平成17年4月から12年間(144月)⇒300月として計算
    (厚生年金の場合、300月に満たない場合でも300月あるものとして計算できる決まりがある。)

①夫が自営業(国民年金)の場合

障害等級と子供の人数に応じて定額を受け取れます。

国民年金(障害基礎年金)の計算方法

1級 779,300円×1.25+子の加算額
2級 779.300円+子の加算
3級 受給権なし

※金額は平成29年4月分から

※子の加算…18歳になる年度において3/31を経過していない子が対象。1人あたり224,300円、3人目以降は1人あたり74,800円。

実際の計算

779,300円×1.25(1級)+224,300円(子の加算1)+224,300円(子の加算2)+74,800円(子の加算3)
1,498,925円(約150万円)
を受け取れます。

1ヶ月あたりだと約150万÷12ヶ月=約12万5,000円になります。

②夫が会社員(厚生年金)の場合

厚生年金の加入期間とその間の給与(=報酬比例)、配偶者の有無によって年金額が変わります。

厚生年金(障害厚生年金)の計算方法

1級 報酬比例の年金額×1.25+配偶者加給
2級 報酬比例の年金額+配偶者加給
3級 報酬比例の年金額(最低保障584,500円)
障害手当金
(一時金)
報酬比例の年金額×2(最低保障1,169,000円)

※金額は平成29年4月分から

■報酬比例の年金額って?■

厚生年金の加入期間と、その間の給与の平均(平均標準報酬月額)を掛け合わせて出します。老後の年金と同じく、加入期間が長く給与が高い方が多く受け取れます。

計算方法は以下のようになります。

平成15年3月以前分
(ボーナス含まず)
平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月以前の加入月数
平成15年4月以降分
(ボーナス含む)
平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以降の加入月数

■配偶者加給とは?■

妻または夫がいる場合、プラスで受け取れる給付です。

  • 対象者…65歳未満の配偶者(配偶者の年収は850万円未満であること)
  • 加給額…224,500円

実際の計算

障害基礎年金
(子の加算3人分を含む)
779,300円×1.25+224,300円+224,300円+74,800円
1,498,925円
障害厚生年金
(配偶者加給を含む)
報酬比例の年金額…35万円×5.481/1000×300月=575,505円
↓↓↓
障害厚生年金額…575,505円×1.25+224,500円
943,881円
合計受給額 1,498,925円+943,881円
2,442,806円(約240万円)

1ヶ月あたりだと約240万円÷12ヶ月=約20万円ですね。

厚生年金に加入していると、自動的に国民年金分の支給も受けられます。

つまり、1級、2級の場合は障害基礎年金(国民年金分)も貰えるので、上乗せで更に手厚く給付が受けられる、ということになります。

まとめ

  1. 自営業者(国民年金)…1,498,925円(約150万円)
  2. 会社員 (厚生年金)…2,442,806円(約240万円)
    ⇒年間90万円、1ヶ月あたり7万5,000円、会社員(厚生年金)の方が多く貰える!

家庭にもよりますが、月7万5,000円は月々の住宅ローン返済平均額とほぼ同じです。自営業者の場合このプラス分が受け取れないことになります。

住宅分と考えると、この差は結構大きいですね…。

自営業の方(国民年金加入者全般)は、今のうちに備えをしておくべき

では自営業者は、会社員のように障害年金を増やすことはできないのか?というと、そんなことはありません。自営業の方でもしっかりと備えられる方法がいくつかあります。

民間の保険への加入

保険会社が出している、障害年金の代わりになるような保険に入って備える方法です。大まかに次の2種類があります(詳細は保険会社によって異なる)。

  • 所得補償保険…保険期間は短期、保険金額は収入により決まる、保険料は年齢に応じて上がる
  • 就業不能保険…保険期間は長期、保険金額は自由に決められる、保険料は加入期間中は上がらない
メリット ・障害状態になった時に保険金が受取れる
・障害状態以外にも病気やケガで働けなくなったら受取れるものもある
・掛金の一部が所得控除(=減税)
デメリット ・月々の保険料負担がある(概ね掛け捨て)
・障害状態や病気、ケガにならなかった場合は何も受け取れない
・加入時の年齢が高いと保険料も上がる

法人化し、厚生年金に加入する

個人事業主ではなく法人化することで、厚生年金に加入できます。

メリット ・障害時には障害年金が多く受け取れる
・老齢年金や遺族年金も多く受け取れる
・法人化することで会社員が入る健康保険にも加入ができる
デメリット ・厚生年金、健康保険などの社会保険料負担が大きく増える
・法人化の手続き、厚生年金加入の手続きが必要
・毎年の税務や従業員雇用の手続きが煩雑になる

確定拠出年金・小規模企業共済を利用し、節税しながら資産を増やしていく

どちらも国の制度で、いざという時に備えて資産そのものを増やす方法です。

メリット ・老後(退職後)に年金が受け取れる
・掛金の全額が所得控除になる(=減税)
・年金受取時も所得控除になる(=減税)
デメリット ・元本割れのリスクがある(確定拠出…運用成績、小規模企業共済…加入月数による)
・60歳まで資産を引出せない(確定拠出年金)
・毎年運用手数料がかかる(確定拠出年金)

民間の個人年金を利用し、資産を増やしていく

こちらは保険会社が出している「個人年金保険」を使って資産そのものを増やす方法です。

メリット ・老後に年金が受け取れる
・掛金の一部が所得控除になる(=減税)
・確定拠出年金のように投資先を自分で考えずに資産を増やせる
デメリット ・途中で解約すると元本割れのリスクがある
・インフレ(物価上昇)が起こると資産価値が減る
・もし保険会社が破綻したら年金額が減る可能性がある

現在の事業状況や年齢、家族構成などに応じてご自身に合ったものを選ぶのがベストです。